深海魚「ライギョダマシ」も食す「南極飯」 地球で最も過酷な地の元調理担当が明かす「生野菜がごちそう」

今年も南極観測船「しらせ」がまもなく日本を出発する。地球で最も厳しい環境にある昭和基地の物資は年1回渡航するこの船で運び込まれ、隊員の...

生物学 Nov 8, 2024 IDOPRESS

今年も南極観測船「しらせ」がまもなく日本を出発する。地球で最も厳しい環境にある昭和基地の物資は年1回渡航するこの船で運び込まれ、隊員の食料も含まれる。現地の食事はどうなっているのか。元調理担当隊員に聞くとともに、東京農業大「食と農」の博物館(世田谷区)で開催中の企画展「南極飯!」をのぞいた。

昭和基地で着ていたコックコートを手にする竪谷博さん。後方は南極で釣り上げたライギョダマシの魚拓=杉並区西荻北で

◆越冬隊員約30人の食料は全体で約50トン

「メニューは日本と変わらないが、生野菜がごちそう。貴重だから」と話すのは、南極観測隊の越冬隊員として計2年半、南極で過ごした竪谷(たてや)博さん(52)。第55次隊(2013年12月〜2015年2月)と第61次隊(2019年12月〜2021年2月)の調理担当を務めた。

南極では現在第65次隊が活動し、第66次隊が出発に備える。「しらせ」に載せる越冬隊員約30人の食料は米や肉、魚介類など1人あたり約1トン。調味料や予備の食料が加わり、全体で約50トンになる。冷凍品のほか乾物や缶詰もあり、キャベツやオレンジなどは寄港するオーストラリアでも調達する。竪谷さんは「一番人気はキャベツの千切り。日本では捨てるくらい古くなったものでも喜ばれた」と話す。

昭和基地内で水耕栽培を行っている部屋=2024年9月、南極で(国立極地研究所提供)

生野菜は持ち込む量が限られて不足するため、基地で水耕栽培を行っている。水耕なのは南極に土が持ち込めないからだ。2008年に設けた装置で、現在はリーフレタス、ピーマン、キュウリ、コマツナ、バジルなど約40種を栽培している。

◆67年前の1次隊は「オオトウゾクカモメ」で巨大焼き鳥

いまは南極の野生動物を捕まえて食べることは禁止されているが、魚は調査のために捕獲し、測定や精査をした後に食べることがある。隊員は厚さ1メートル以上の氷にドリルで穴を開け、太い釣り糸を水深約600メートルまで垂らし、スルメイカをえさに深海魚「ライギョダマシ」を捕獲する。ライギョダマシはかつては「銀ムツ」、いまは「メロ」と呼ばれる高級食材だ。

㊧再現した「オオトウゾクカモメの焼き鳥」について説明する田留健介さん、㊨開会式で竪谷博さんが作ったライギョダマシの煮付け=いずれも世田谷区の「食と農」の博物館で

10月中旬に行われた企画展の開会式で、竪谷さんはこの魚の煮付けを関係者に出した。「くせのない白身。南極のは大きくて料理するのに苦労した。真ん中で二つに切り、丸焼きにした」。竪谷さんは現在、杉並区西荻北で居酒屋を経営しており、店内に南極での2020年12月の釣果(全長150センチ、重さ46.5キロ)の魚拓を飾っている。

さかのぼれば、第1次隊(1957年)は現地の野生動物を食べていた。オオトウゾクカモメで大きな焼き鳥を作る様子の写真が残っており、企画展では模型で再現されている。居酒屋チェーン「鳥貴族」と食品サンプル会社「いわさき」が依頼を受けて制作した。

◆国内水準になった食事が観測を支えている

展示を企画した田留(たどめ)健介・東京農業大准教授は第61次隊員だった。「第1次隊のときは取り決めがなかったから、食料に困って野生生物を捕らえて食べたのは仕方なかった。いまは日本と変わらない水準になった南極の食事が研究・観測を支えている」と説明する。

第55次隊員の食事の様子。左端が竪谷博さん=2015年1月、南極・昭和基地で(国立極地研究所提供)

「食と農」の博物館の「南極飯!」は来年3月29日まで。入場無料。休館は日曜、月曜、祝日、大学が定めた日。問い合わせは電03(5477)4033へ。

◆文・桜井章夫/写真・田中健、桜井章夫

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