記憶はすり替わる。写真は嘘を見せる だからこそ表現していく作家たちの現在とは?「ふたたびくみたてる 日本の新進作家 vol. 23」|ぐるり東京

エネルギー Oct 20, 2026 IDOPRESS

それぞれの感性で、新たな表現に挑む5人の作家たち。左から、野村在、苅部太郎、市田小百合、藤倉麻子、橋本麦(いずれも市川和宏撮影)

毎年楽しみな「日本の新進作家」展


今年の5人はどんな


新しい表現を見せてくれるかしら!?

「日本の新進作家」展は、東京都写真美術館が2002年から継続的に開催している若手作家による写真や映像、インスタレーションの展覧会。第23回になる今年は、実在するものの記録や素材などをもとに、新たなイメージや経験を組み立てていく作家たちが登場する。

写真や映像を媒介とする“記憶”とは何なのか

“写真・映像の可能性に挑戦する創造的精神を支援し、将来性のある作家を発掘するとともに、新たな創造活動を紹介する”ことを目的とする「日本の新進作家」展。写真と映像の可能性に注目して、毎回、斬新な表現方法に取り組む作家の作品を展示している。

今年のテーマ「ふたたびくみたてる」は、現実にあるモノ、素材、記憶、技術などをもとに、見たことのない表現や、存在しない景色をつくり出していく作品群。もとになる写真や映像の意味を「汲み取り」、新たなイメージに「組み立てる」ことからのタイトルだ。専門知識がなくとも、生成AIによる画像や、加工した画像などが簡単にでき、真実とフェイクの境があいまいになっている今だからこその問いかけとも言えるだろう。出展作家は野村在・苅部太郎・市田小百合・藤倉麻子・橋本麦(ばく)の5人だ。

とはいっても、どういう写真や映像なのか想像もつかない。会場に入ってみよう。

まず、第1室は野村在。

野村 在展示風景

壁の大きなガラス板に、緑や青、オレンジ、紫などの色が形を持たずにぼやけ、揺らめいている。この色彩はUV硬化型インクジェット・プリントでガラスに印刷したものだ。けれど何を表現しているものなのだろう?

どれもタイトルは「バイオフォトンはかくも輝く」なのだが、その後にカッコで加えられた言葉はそれぞれ違う。「左上をみる美しい赤ん坊、手にはハーモニカ、1925」「肩を組む二人の若い日本人航空兵、1943」「黄色の海水パンツを履いてサングラスをした口髭の中年男性と白色のビキニを着た同年代の女性、海水客で賑わうビーチ、サンディエゴ、1980」……。

これは、野村自身が集めた約120年にわたるポートレート写真を燃やした炎を、長時間露光で撮影したものなのだ。

中央にはブロックゲームのジェンガのような立体が置かれている。タイトルは「上へ」。素材は実際に使用されていた墓石だという。積まれたブロックは、美術館の看視員がジェンガ同様に1本ずつ引き抜いて上に乗せる。崩れたら元の形に積み直して再開する。

人が亡くなった後も写真や墓は残っている。しかしそれも長い歳月の中で失われていくだろう。野村は、それらをそのまま残そうとするのでなく、そぎ落とした末に何が残るのかを考えたそうだ。出征する際の若い祖父が、空襲で死んだ妹と共にいる写真を燃して撮った際、非常に美しい輝きが写ったのがきっかけだったという。生きた痕跡や存在が希薄になっても残るもの。形を変えて続く祈りのような作品群である。

私たちが見るものは真実なのかという問い、そして記憶の再構成

苅部太郎《あの海に見える岩を、弓で射よ #30》2022年

インクジェット・プリント 作家蔵 ⓒTaro Karibe

2室めの苅部太郎の作品は、「あの海に見える岩を、弓で射よ」と名付けたシリーズ。ぱっと見ただけだとどれも、リアルな風景写真をデジタル処理して非現実性を持たせたもののようだ。

ところどころに灌木のある急峻な崖。岩山の麓の湖水のほとりに青みを反射して並ぶ家々。水底の赤く美しい珊瑚か、あるいは増殖していく菌糸。斜面に白い建物がひしめくアマルフィを思わせる入り江。上空から見たアマゾンの熱帯雨林……。はっきりとそう見えるわけではないが、そのように感じ取れる、ということだ。

ところが!これらの作品の素材に現実の風景は一切使われていない。テレビの受信部を接触不良にしてズレ・歪み・乱れなどの誤作動を発生させ、その画面を撮影した上でさらに反転させて何が映っていたかわからなくし、生成AI搭載の画像編集システムに入力して得たのだという。生成AIは、既に学習している風景の中から似たものを探し出して予測し、なんとかして意味のある風景写真に仕立て上げるのだ。

AIが情報源とする膨大な量の写真は人間が撮ったものだ。そして、それらをもとに生成される崩れたデタラメな風景を見る私たちもまた、脳内の視覚情報の記憶をもとに“これはきっと崖”“たぶん湖水”などと判断してしまう。

報道写真家としてスタートした苅部は、「現場の写真にも修正は入るし、同じ写真でも人の受け取り方は違う」と話す。「情報の誤配が、この世界を豊かなものにも残酷なものにも変える」とも。それを目に見える形で提出され、息をのむ思いだ。

◇◇◇

市田小百合〈空席(Kūseki)〉より展示風景

第3室は、どこか静謐なインスタレーション。子ども達が遊ぶ声、教室での歌、黒板に書くチョークの音、授業開始のチャイムなどの音が流れるほの暗い部屋に、黒板素材の衝立が並んでいる。表側には廃校になった小学校校舎の断片をコラージュ。裏にはその学校の緯度経度とピーク時・廃校時の児童数が書かれている。

「空席」と称するこの作品を制作した市田小百合は、暮らしているイギリスでも、日本の少子化が報道されており、その深刻さを考えるようになったと話す。郷里新潟の小さな町でも、帰国するたびに廃校が増えていく。「アーティストとしてなにか声を上げるべきではないかと、1年間一時帰国して、新潟県内30の廃校を巡って作りました」

「廃校」という言葉から思い浮かぶ懐かしの木造校舎などではない。ほとんどが鉄筋コンクリート造の立派なもの。町で最も大きな建築だ。それがもはや使われず忘れ去られていくスピードの速さたるや。断片化された構造物の写真は、それが日本のどこにでも起きていることという普遍性につながる。会場の音と併せて記憶を呼び覚ますとともに、現代社会への問題意識を喚起する。

◇◇◇

藤倉麻子《4 Tales of Open Sunrise City 》展示風景

第4室の藤倉麻子の作品も、映像主体のインスタレーションと呼んでよいだろう。2つの大画面に流れる動画は、3DCGと実写を組み合わせたもの。架空の都市「オープンサンライズシティー」の都市開発計画について、じつに真面目な説明がなされる。

地上では何が起きたのだろう。戦禍なのかパンデミックか、それとも地球温暖化による荒廃か。都市のまわりは荒野のようにも見える。そこでかつて人々は自分たちで作った日干しレンガを積み上げ、町を作ってきた。しかし垂直方向の高層高密度化により日照不足や不同沈下が始まる。そこで朝日を最大限に取り込むため、壁の規制が行われている、という物語がベースだ。

このSF的なファンタジーを支えるのが、藤倉が多くの現場で撮影したリアルな写真だ。土や砂などの採掘場、鉄筋類や配管部品の集積所、建設工事現場などの写真は、動画に挿入されるだけでなく、ストーリーに沿って壁面にも掲示されている。そして部屋の真ん中にはシティーの住民が作ったとされる日干しレンガのベンチも!腰掛けて都市開発計画に耳を傾けていると、ついついシティーの1住民として問題点などを考え始めてしまうのも、藤倉による仕掛けなのか……?

町工場で昔から使う工作機械でアニメーション公開制作!?

橋本麦《Milling Stop-Motion (tentative title)》2024年- 2チャンネル・ヴィデオインスタレーション 作家蔵 ⓒBaku Hashimoto

最後の第5室は橋本麦(ばく)の公開制作。室内の多くを占めるのは黒い板に囲われた装置とコンピュータだ。壁のひとつにのみ、装置の囲い板に視界を邪魔されながら2つの映像が映っている。

囲いの中をのぞくと、町工場で部品加工に使われるコンピュータ制御のフライス盤にカメラを取り付けたものがある。橋本麦はこの機械で、木材の塊を削り、その過程を1コマずつ撮影し、コマ送りのアニメーションを制作する。


「機械の動きはプログラミングで制御していますが、危険もあるので、できるだけ会場に通って、自分がいる時だけ動かすつもりです」と橋本。少し削っては工具を退避させて撮り、1日に撮影できるのは動画1.7秒分。2027年1月17日の会期終了時に完成を見る作品は、おそらく3分程度だ。

なぜ町工場用の機械でこんなことを?「アルミや木など硬いものに鋳鉄のドリル刃が入り、削っていくプロセスが面白くて」と橋本。「1900年代のオスカー・フィッシンガーから始まる抽象アニメーションの系譜を、この力強い動きで表現したいと思ったんです」

制作のプロセスを間近で見られる公開制作も行う

壁の映像では、片方は素材とした木材の今現在の変化状況を写し、もう一方ではこれまでの作品を見せる。金属は不思議と柔らかな表情を見せ、硬質発泡スチロールは意外とかっちり。ロウは削る先からドリルの熱でとろけ、木材は木目がどこか未来的なリズムを作る。でも、素材が何なのかは鑑賞ポイントではない。“見たことのない景色”であることこそが重要なのだ。

◇◇◇

どの作家の展示も、写真・映像の“現在”に触れるものばかり。表現はここまで来ているのかと実感させられる。そして、私たちが意識せず持っている価値観も、少しだけアップデートされるかも知れない。

私たちが見ているものの


意味や真偽が揺るがされる思い。


刺激的な展覧会だったわー!

ふたたびくみたてる日本の新進作家 vol. 23

会期:9月30日(水)~2027年1月17日(日)


会場:東京都写真美術館3階展示室


東京都目黒区三田1-13-3恵比寿ガーデンプレイス内


開館時間:10:00~18:00(木・金曜日は20:00まで) ※入館は閉館30分前まで


休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館、翌平日は休館)、年末年始(12/28-1/1)


観覧料:一般700円、学生560円、高校生・65歳以上350円


問い合わせ:03-3280-0099


https://topmuseum.jp/exhibition/5423/


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